先日、『精子のDNA損傷を調べる検査、SDF検査について』や『精子DNA損傷は、体外受精とICSI後の流産リスクの増加と関連付けられます』など精子のDNA損傷についてメールをしましたがリプロダクションクリニック院長の松林秀彦先生のブログに『精子のDNA損傷は卵子が修復する』こと、『加齢した卵子ではその修復力が低下する』事についてのオックスフォード大学の論文の解説が書かれていました。
とても興味を引く内容でしたので転記致します。
『精子のDNA損傷は卵子が修復する』
参照元:
『Female ageing affects the DNA repair capacity of oocytes in IVF using a controlled model of sperm DNA damage in mice』
本論文は、精子のDNA損傷は卵子が修復すること、加齢した卵子ではその力が低下することをマウスで示したものです。
要約
C57BL6マウスを用いて体外受精を行いました。
メスマウスは若齢マウス(5〜8週齢)と高齢マウス(42〜45週齢)をそれぞれ15匹ずつ飼育し、過排卵刺激により卵胞を発育させ卵子を確保しました。
オスマウス(6〜8週齢)の精巣上体から採取した精子に放射線を照射してDNA損傷を起こし(0、1、30Gy)たものを体外受精に用い、培養成績を比較しました。
結果は下記の通り(有意差がみられた項目を赤字表示)。
放射線照射 なし 1Gy 30Gy P値
精子DNA損傷 6.1% 16.1% 53.1% <0.0001
受精率
若齢マウス 86.8% 82.8% 76.7% NS
高齢マウス 93.1% 70.4% 68.2% NS
胚盤胞到達率
若齢マウス 87.0% 33.3% 3.0% <0.0001
高齢マウス 70.4% 0% 0% <0.0001
NS=有意差なし
卵子の遺伝子修復に関与する遺伝子を調べたところ、若齢マウスと比べ高齢マウスで、GV卵の21遺伝子、MII卵の23遺伝子で遺伝子発現の有意な低下を認めました。
遺伝子発現が低下したのは、主に二重鎖切断経路(DSB)、ヌクレオチド除去修復経路(BER)、DNA損傷反応経路(DDR)の遺伝子群でした。DDRはγH2AX標識により識別が可能であり、1Gy照射の受精時には若齢マウスではDDRが増加しましたが、高齢マウスではDDRに変化がありませんでした。
また、1Gy照射の2細胞時には、若齢マウスも高齢マウスもDDRが低下しました。
なお、GV卵もMII卵も遺伝子修復遺伝子発現は、若齢マウスと比べ高齢マウスでおよそ50%低下していました(BER遺伝子のSlk、DDR遺伝子のTop3、DSB遺伝子のRad51)。
解説
受精後、受精卵の遺伝子が活性化される前のDNA損傷の修復には、卵子の転写因子と蛋白が関与すると考えられています。
精子は細胞質がほとんどなく、DNA損傷を受けやすい構造であり、さらに精子にはDNA損傷を修復する仕組みが備わっていないため、受精後に卵子によるDNA損傷の修復がカギになるとされていましたが、これまで証明されていませんでした。
本論文は、精子のDNA損傷は卵子が修復すること、加齢した卵子ではその修復力が低下することをマウスで示したものです。
結論
★精子にはDNAの損傷を修復する仕組みは備わっていない。
★精子のDNAの損傷は卵子が修復する。
★加齢の卵子ではその修復力が低下する。
男性側の精子のDNA損傷は流産の原因になったり受精卵の発育不全に繋がりますので男性側がしっかりとケアを心がける事が大切ですが今回、有る程度のDNA損傷は女性の卵子の力で修復が可能だという事が証明されました。
とはいえ女性の卵子は加齢と共に修復力が低下する事も事実ですので卵巣内の卵子を取り巻く顆粒膜細胞を活性化する事がとても大切です。